函館地方裁判所 昭和33年(わ)263号 判決 1959年2月25日
被告人 甲 外一名
主文
被告人甲を懲役一年六月以上三年以下に、
被告人乙を懲役一年に処する。
被告人両名に対し未決勾留日数中百八十日を右各刑に算入する。
但し被告人乙に対しこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
被告人乙を保護観察に付する。
訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人甲、同乙はいずれも二十歳に満たない少年であり、夫々新制中学校を卒業し、その後函館市○○町○番地香具師向平正一方の若衆となつて雑貨商の露天販売をなしていたものであるが、
第一、昭和三十三年六月十五日夜被告人両名は兄貴分の鈴木照明外五名と共に同市大黒町の夜市に金物雑貨類の露店を開いたが、午後十時過頃店を終り小型四輪自動車に商品を積込み同町七十八番地長谷川質店向側道路上に停車していたところ、同自動車荷台で流行歌を歌つていた同僚の木村輝美が通りがかつた古山政幸から因縁をつけられ、その仲に入つた右鈴木も古山に求められて所謂仁義を切つているところをやにわに顔面を殴打された等のことに憤激し、右鈴木等と共謀のうえ古山及びその同僚である内藤一雄(当時三十七年)、館山照二(当時二十四年)等五、六名位と闘争しようと決意し、被告人乙は附近のごみ箱の蓋を以て右内藤一雄の頭部等を殴打し因つて同人に対し全治約十日間を要する頭部挫創、右下腿部擦過傷等の傷害を負わせ、被告人甲は前記自動車荷台から持ち出した商品用の出刃庖丁を以て、場合によつては死んでも構わないとの考えのもとに右館山照二の右上腹部を一回突き刺したが、同人に対し入院加療五十八日を要する右季肋部切創、肝右葉切創等の傷害を与えたのみで殺害に至らず、
(一) 第二被告人は、同年三月六日当時店員として勤務していた札幌市藻岩下四百四十八番地鮮魚商堀川正和方において、同人所有の現金千五百円を窃取し
(二) 同年四月三日頃その頃知り合つた加藤忠彦からダスターコート一着及び皮靴一足(時価合計約六千円相当)を借受け同人のため預り保管中同日頃函館市内において擅にこれを着服して横領し
(三) 同年五月十日午後九時頃千秋仙太郎と共謀のうえ同市高盛町十六番地池森自動車工場内において池森初彰保管にかかる自動車用バツテリー二個(時価合計五万円相当)を窃取し
たものである。
(証拠の標目)<省略>
弁護人は判示第一の事実につき被告人甲は殺意を有しなかつた旨主張し、被告人甲もこれに添う供述をするけれども、同被告人の館山照二に対する本件犯行は判示のように兄貴分である鈴木照明が顔面を殴打されたことに憤激して刃渡約十四糎の出刃庖丁を振い、素手で立ち向つた右館山の正面からその上腹部を突き刺したものであり、その程度も第八、九肋軟骨、右肋膜を切損し肝右葉を切傷する重篤な傷害を与えたものであつて、これを通常人の身体の内臓部に兇器を以て刺切創を与える場合には当然死の結果を予想すべき経験則に照し考察すれば、本件犯行に当つても被告人は右館山が死の結果を招来すべきことを予想しながら敢て右犯行に出でたものと推断するのが相当であり、弁護人の右主張は採用できない。
(法令の適用)
法律に照すと被告人の判示所為中被告人甲の判示第一の傷害の点は刑法第二百四条罰金等臨時措置法第二条第三条刑法第六十条に、同殺人未遂の点は同法第二百三条第百九十九条第六十条に、判示第二の(一)、(三)の各窃盗の点は同法第二百三十五条(同(三)につきなお同法第六十条)判示第二の(二)の横領の点は同法第二百五十二条に夫々該当するので傷害罪につき所定刑中懲役刑を選択し殺人未遂罪につき所定刑中有期懲役刑を選択し、なお同法第四十三条本文第六十八条第三号に従い未遂減軽をなし、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条本文第十条に従い刑期並びに犯情の重い傷害罪の刑に法定の加重をなした刑期範囲内で処断することとするが、同被告人は少年であるから少年法第五十二条第一項に則り被告人甲を懲役一年六月以上三年以下に処し刑法第二十一条に従い未決勾留日数中百八十日を右の刑に算入することとし、被告人乙の判示第一の傷害の点は刑法第二百四条罰金等臨時措置法第二条第三条刑法第六十条に該当し同館山照二に対する点はその生じた殺人未遂の結果よりすれば同法第二百三条第百九十九条第六十条に該当するが、当時同被告人は殺人の故意がなかつたのであるから同法第三十八条第二項に従い軽い傷害罪の刑に従つて処断することとし同法第二百四条罰金等臨時措置法第二条第三条刑法第六十条に従うこととし右各所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条本文第十条に従い犯情の重い館山照二に対する傷害の罪の刑に法定の加重をなし、同被告人も亦少年であるが犯情に鑑み刑の執行を猶予するのが相当と認められるから少年法第五十二条第一項第三項に従い右刑期範囲内で被告人を懲役一年に処し刑法第二十一条に則り未決勾留日数中百八十日を右の刑に算入し、同法第二十五条第一項に従いこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予しなおその家庭並びに生活環境に照し同法第二十五条の二第一項前段に則り右猶予の期間中保護観察に付することとし、訴訟費用につき刑事訴訟法第百八十一条第一項本文第百八十二条を適用し全部被告人両名に連帯して負担させることとする。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 永淵芳夫 千葉和郎 新居康志)